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トップ > 太宰Web文庫 > 失敗園
失敗園 (p2/4)
(わが陋屋《ろうおく》には、六坪ほどの庭があるのだ。愚妻は、ここに、秩序も無く何やらかやら一ぱい植えたが、一見するに、すべて失敗の様子である。それら恥ずかしき身なりの植物たちが小声で囁《ささや》き、私はそれを速記する。その声が、事実、聞えるのである。必ずしも、仏人ルナアル氏の真似《まね》でも無いのだ。では。)

 とうもろこしと、トマト。

「こんなに、丈ばかり大きくなって、私は、どんなに恥ずかしい事か。そろそろ、実をつけなければならないのだけれども、おなかに力が無いから、いきむ事が出来ないの。みんなは、葦《あし》だと思うでしょう。やぶれかぶれだわ。トマトさん、ちょっと寄りかからせてね。」
「なんだ、なんだ、竹じゃないか。」
「本気でおっしゃるの?」
「気にしちゃいけねえ。お前さんは、夏|痩《や》せなんだよ。粋《いき》なものだ。ここの主人の話に拠《よ》ればお前さんは芭蕉《ばしょう》にも似ているそうだ。お気に入りらしいぜ。」
「葉ばかり伸びるものだから、私を揶揄《やゆ》なさっているのよ。ここの主人は、いい加減よ。私、ここの奥さんに気の毒なの。それや真剣に私の世話をして下さるのだけれども、私は背丈ばかり伸びて、一向にふとらないのだもの。トマトさんだけは、どうやら、実を結んだようね。」
「ふん、どうやら、ね。もっとも俺は、下品な育ちだから、放《ほ》って置かれても、実を結ぶのさ。軽蔑し給うな。これでも奥さんのお気に入りなんだからね。この実は、俺の力瘤《ちからこぶ》さ。見給え、うんと力むと、ほら、むくむく実がふくらむ。も少し力むと、この実が、あからんで来るのだよ。ああ、すこし髪が乱れた。散髪したいな。」

 クルミの苗。

「僕は、孤独なんだ。大器晩成の自信があるんだ。早く毛虫に這いのぼられる程の身分になりたい。どれ、きょうも高邁《こうまい》の瞑想《めいそう》にふけるか。僕がどんなに高貴な生まれであるか、誰も知らない。」

 ネムの苗。

「クルミのチビは、何を言っているのかしら。不平家なんだわ、きっと。不良少年かも知れない。いまに私が花咲けば、さだめし、いやらしい事を言って来るに相違ない。用心しましょう。あれ、私のお尻をくすぐっているのは誰? 隣りのチビだわ。本当に、本当に、チビの癖《くせ》に、根だけは一人前に張っているのね。高邁な瞑想だなんて、とんでもない奴さ。知らん振りしてやりましょう。どれ、こう葉を畳んで、眠った振りをしていましょう、いまは、たった二枚しか葉が無いけれども、五年|経《た》ったら美しい花が咲くのよ。」

 にんじん。

「どうにも、こうにも、話にならねえ。ゴミじゃ無え。こう見えたって、にんじんの芽だ。一箇月前から、一分も伸びねえ。このまんまであった。永遠に、わしゃ、こうだろう。みっ

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