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トップ > 太宰Web文庫 > ろまん燈籠
ろまん燈籠 (p6/31)
にはとてもその資格がありませんからと固辞して利巧に逃げている。殊に次男は、その勲章を自分の引出しにしまい込んで、落したと嘘をついた事さえある。祖父は、たちまち次男の嘘を看破し、次女に命じて、次男の部屋を捜査させた。次女は、運わるくそのメダルを発見したので、こんどは、次女に贈呈された。祖父は、この次女を偏愛している様子がある。次女は、一家中で最もたかぶり、少しの功も無いのに、それでも祖父は、何かというと此の次女に勲章を贈呈したがるのである。次女は、その勲章をもらうと、たいてい自分の財布の中に入れて置く。祖父は、次女にだけは、そんな除外例を許可するのである。胸に吊り下げずとも、いいのである。一家中で、多少でも、その勲章を欲しいと思っているのは、末弟だけである。末弟も流石にそれを授与されて胸に吊り下げられると、何だか恥ずかしくて落ちつかない気がするのだけれど、それを取り上げられて誰か他の人に渡される時には、ふっと淋しくなるのである。次女の留守に、次女の部屋へこっそりはいっていって財布を捜し出し、その中のメダルを懐《なつか》しそうに眺めている時もある。祖母は、この勲章を一度も授与された事が無い。はじめから、きっぱり拒否しているのである。ひどく、はっきりした人なのである。ばからしい、と言っている。この祖母は、末弟を目にいれても痛くないほど可愛がっている。末弟が一時、催眠術の研究をはじめて、祖父、母、兄たち姉たち、みんなにその術をかけてみても誰も一向にかからない。みんな、きょろきょろしている。大笑いになった。末弟ひとり泣きべそかいて、汗を流し、最後に祖母へかけてみたら、たちまちにかかった。祖母は椅子に腰かけて、こくりこくりと眠りはじめ、術者のおごそかな問いに、無心に答えるのである。
「おばあさん、花が見えるでしょう?」
「ああ、綺麗《きれい》だね。」
「なんの花ですか?」
「れんげだよ。」
「おばあさん、一ばん好きなものは何ですか?」
「おまえだよ。」
 術者は、少し興覚《きょうざ》めた。
「おまえというのは、誰ですか?」
「和夫(末弟の名)じゃないか。」
 傍で拝見していた家族のものが、どっと笑い出したので、祖母は覚醒した。それでも、まず、術者の面目は、保ち得たのである。とにかく祖母だけは、術にかかったのだから。でも、あとで真面目な長兄が、おばあさん、本当にかかったのですか、とこっそり心配そうに尋ねたとき、祖母は、ふんと笑って、かかるものかね、と呟《つぶや》いた。
 以上が、入江家の人たち全部のだいたいの素描である。もっと、くわしく紹介したいのであるが、いまは、それよりも、この家族全部で連作した一つの可成《かな》り長い「小説」を、お知らせしたいのである。入江の家の兄妹たちは、みんな、多少ずつ文芸の趣味を持っている事は前にも言って置いた。かれらは時々、物語の連作をはじめる事がある。たいてい

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