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トップ > 太宰Web文庫 > 美男子と煙草
美男子と煙草 (p3/6)
 ああ、生きて行くという事は、いやな事だ。殊《こと》にも、男は、つらくて、哀《かな》しいものだ。とにかく、何でもたたかって、そうして、勝たなければならぬ[#「勝たなければならぬ」に傍点]のですから。
 その、くやし泣きに泣いた日から、数日後、或る雑誌社の、若い記者が来て、私に向い、妙な事を言いました。
「上野の浮浪者を見に行きませんか?」
「浮浪者?」
「ええ、一緒の写真をとりたいのです。」
「僕が、浮浪者と一緒の?」
「そうです。」
 と答えて、落ちついています。
 なぜ、特に私を選んだのでしょう。太宰といえば、浮浪者。浮浪者といえば、太宰。何かそのような因果関係でもあるのでしょうか。
「参ります。」
 私は、泣きべその気持の時に、かえって反射的に相手に立向う性癖を持っているようです。
 私はすぐ立って背広に着換え、私の方から、その若い記者をせき立てるようにして家を出ました。
 冬の寒い朝でした。私はハンカチで水洟《みずばな》を押えながら、無言で歩いて、さすがに浮かぬ心地《ここち》でした。
 三鷹《みたか》駅から省線で東京駅|迄《まで》行き、それから市電に乗換え、その若い記者に案内されて、先《ま》ず本社に立寄り、応接間に通されて、そうして早速ウイスキイの饗応にあずかりました。
 思うに、太宰はあれは小心者だから、ウイスキイでも飲ませて少し元気をつけさせなければ、浮浪者とろくに対談も出来ないに違いないという本社|編輯部《へんしゅうぶ》の好意ある取計らいであったのかも知れませんが、率直に言いますと、そのウイスキイは甚《はなは》だ奇怪なしろものでありました。私も、これまでさまざまの怪しい酒を飲んで来た男で、何も決して上品ぶるわけではありませんが、しかし、ウイスキイの独り酒というのは初めてでした。ハイカラなレッテルなど貼《は》られ、ちゃんとした瓶《びん》でしたが、内容が濁っているのです。ウイスキイのドブロクとでも言いましょうか。
 けれども私はそれを飲みました。グイグイ飲みました。そうして、応接間に集って来ていた記者たちにも、飲みませんか、と言ってすすめました。しかし、皆うす笑いして飲まないのです。そこに集って来ていた記者たちは、たいていひどいお酒飲みなのを私は噂《うわさ》で聞いて知っているのでした。けれども、飲まないのです。さすがの酒豪たちも、ウイスキイのドブロクは敬遠の様子でした。
 私だけが酔っぱらい、

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