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母 (p3/9)
 私は一目見て、
「蛇《へび》だ。」
 と言った。
「そうです。マムシの照り焼です。これもまた、地方文化の一つじゃないでしょうか。この地方の産物を、出来るだけおいしくたべる事に、独自の工夫をこらした結果、こんなものが出来上ったんです。地方文化研究のためにも、たべてみて下さい。」
 私は、観念して、たべた。
「いかがです。おいしいでしょう?」
「うむ。」
「精が、つきますよ。これを、一度に五寸以上たべると、鼻血が出ます。先生はいま、二寸たべましたから、まだ大丈夫。もう二寸たべてごらんなさい。四寸くらいたべたら、ちょうどからだにいいでしょう。」
 私は仕方なく、
「それでは、もう二寸、ごちそうになりましょう。」
 と言って、たべた。
「いかがです。からだが、ぽかぽかして来やしませんか。」
「うむ。ぽかぽかして来たようだ。」
 突然、青年は、声を挙げて笑った。
「先生、ごめんなさい。それは、青大将なんです。お酒も、濁酒じゃないんです。一級酒に私がウイスキイをまぜたんです。」
 しかし、私はそれから、その青年と仲よしになった。私をこんなに見事にかつぐとは、見どころがあると思った。
「先生、こんど僕の家へあそびに来てくれませんか?」
「たいぎだ。」
「地方文化が豊富にありますよ。お酒でも、ビイルでも、ウイスキイでも、さかなでも、肉でも。」
 その青年の名は、小川新太郎といって、日本海に面した或る港町の、宿屋の一人息子《ひとりむすこ》だという事を、私は知っていた。
「それを餌《えさ》に、座談会じゃないのか?」
 私は、所謂文化講演会だの、座談会だのに出て、人々に民主主義の意義などを説き聞かせるのは、にがてなのである。いかにも自分がにせもので、狸《たぬき》のお化けのような気がして来て、たまらないのである。
「まさか、先生のお話なんか聞きに来る人は、無いでしょう。」
「そうでもあるまい。現に君が、僕の話を拝聴しにこうして度々《たびたび》やって来る。」
「ちがいますよ。僕は、遊びに来るのです。遊び方の研究をしに来ているのです。これも文

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