雀こ (p2/4) [#ここから2字下げ]長え長え昔噺《むがしこ》、知らへがな。 山の中に橡《とち》の木いっぽんあったずおん。 そのてっぺんさ、からす一羽来てとまったずおん。 からすあ、があて啼《な》けば、橡の実あ、一つぼたんて落づるずおん。 また、からすあ、があて啼けば、橡の実あ、一つぼたんて落づるずおん。 また、からすあ、があて啼けば、橡の実あ、一つぼたんて落づるずおん。 ………………………… [#ここで字下げ終わり] ひとかたまりの童児《わらわ》、広《ふろ》い野はらに火三昧《ひざんまい》して遊びふけっていたずおん。春になればし、雪こ溶け、ふろいふろい雪の原のあちこちゆ、ふろ野の黄はだの色の芝生こさ青い新芽の萌えいで来るはで、おらの国のわらわ、黄はだの色の古し芝生こさ火をつけ、そればさ野火と申して遊ぶのだおん。そした案配《あんばい》こ、おたがい野火をし距《へだ》て、わらわ、ふた組にわかれていたずおん。かたかたの五六人、声をしそろえて歌ったずおん。 ――雀、雀、雀こ、欲《ほ》うし。 ほかの方図《ほず》のわらわ、それさ応《こた》え、 ――どの雀、欲うし? て歌ったとせえ。 そこでもってし、雀こ欲うして歌った方図のわらわ、打ち寄り、もめたずおん。 ――誰をし貰ればええべがな? ――はにやすのヒサこと貰れば、どうだべ? ――鼻たれて、きたなきも。 ――タキだば、ええねし。 ――女くされ、おかしじゃよ。 ――タキは、ええべせえ。 ――そうだべがな。 そうした案配こ、とうとうタキこと貰るようにきまったずおん。 ――右《みぎ》りのはずれの雀こ欲うし。 て、歌ったもんだずおん。 タキの方図では、心根っこわるくかかったとせえ。 ――羽こ、ねえはで呉れらえね。 ――羽こ呉れるはで飛んで来い。 こちで歌ったどもし、向うの方図で調子ばあわれに、また歌ったずおん。 ――杉の木、火事で行かえない。 したどもし、こちの方図では、やたら欲しくて歌ったとせえ。
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