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女生徒 (p3/24)
たいへんやさしくなるのだ。
 だけど、やっぱり眼鏡は、いや。眼鏡をかけたら顔という感じが無くなってしまう。顔から生れる、いろいろの情緒、ロマンチック、美しさ、激しさ、弱さ、あどけなさ、哀愁、そんなもの、眼鏡がみんな遮《さえぎ》ってしまう。それに、目でお話をするということも、可笑《おか》しなくらい出来ない。
 眼鏡は、お化け。
 自分で、いつも自分の眼鏡が厭だと思っているゆえか、目の美しいことが、一ばんいいと思われる。鼻が無くても、口が隠されていても、目が、その目を見ていると、もっと自分が美しく生きなければと思わせるような目であれば、いいと思っている。私の目は、ただ大きいだけで、なんにもならない。じっと自分の目を見ていると、がっかりする。お母さんでさえ、つまらない目だと言っている。こんな目を光の無い目と言うのであろう。たどん、と思うと、がっかりする。これですからね。ひどいですよ。鏡に向うと、そのたんびに、うるおいのあるいい目になりたいと、つくづく思う。青い湖のような目、青い草原に寝て大空を見ているような目、ときどき雲が流れて写る。鳥の影まで、はっきり写る。美しい目のひととたくさん逢ってみたい。
 けさから五月、そう思うと、なんだか少し浮き浮きして来た。やっぱり嬉《うれ》しい。もう夏も近いと思う。庭に出ると苺《いちご》の花が目にとまる。お父さんの死んだという事実が、不思議になる。死んで、いなくなる、ということは、理解できにくいことだ。腑《ふ》に落ちない。お姉さんや、別れた人や、長いあいだ逢わずにいる人たちが懐《なつ》かしい。どうも朝は、過ぎ去ったこと、もうせんの人たちの事が、いやに身近に、おタクワンの臭《にお》いのように味気なく思い出されて、かなわない。
 ジャピイと、カア(可哀想《かわいそう》な犬だから、カアと呼ぶんだ)と、二匹もつれ合いながら、走って来た。二匹をまえに並べて置いて、ジャピイだけを、うんと可愛がってやった。ジャピイの真白い毛は光って美しい。カアは、きたない。ジャピイを可愛がっていると、カアは、傍で泣きそうな顔をしているのをちゃんと知っている。カアが片輪だということも知っている。カアは、悲しくて、いやだ。可哀想で可哀想でたまらないから、わざと意地悪くしてやるのだ。カアは、野良犬みたいに見えるから、いつ犬殺しにやられるか、わからない。カアは、足が、こんなだから、逃げるのに、おそいことだろう。カア、早く、山の中にでも行きなさい。おまえは誰にも可愛がられないのだから、早く死ねばいい。私は、カアだけでなく、人にもいけないことをする子なんだ。人を困らせて、刺戟する。ほんとうに厭な子なんだ。縁側に腰かけて、ジャピイの頭を撫《な》でてやりながら、目に浸《し》みる青葉を見ていると、情なくなって、土《つち》の上に坐りたいような気持になった。
 泣いてみたくなった。うんと息《いき》をつめて、目を充血させると、少し涙が出るかも知れないと思って、やってみたが、だめだった。もう、涙のない女になったのかも知れない。
 あきらめて、お部屋の掃除をはじめる。お掃除しながら、ふと「唐人お吉」を唄う。ちょ

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