失敗園 (p3/4) ともなくていけねえ。誰か、わしを抜いてくれないか。やけくそだよ。あははは。馬鹿笑いが出ちゃった。」だいこん。 「地盤がいけないのですね。石ころだらけで、私はこの白い脚を伸ばす事が出来ませぬ。なんだか、毛むくじゃらの脚になりました。ごぼうの振りをしていましょう。私は、素直に、あきらめているの。」 棉の苗。 「私は、今は、こんなに小さくても、やがて一枚の座蒲団《ざぶとん》になるんですって。本当かしら。なんだか自嘲したくて仕様が無いの。軽蔑しないでね。」 へちま。 「ええと、こう行って、こうからむのか。なんて不細工な棚なんだ。からみ附くのに大骨折りさ。でも、この棚を作る時に、ここの主人と細君とは夫婦喧嘩をしたんだからね。細君にせがまれたらしく、ばかな主人は、もっともらしい顔をして、この棚を作ったのだが、いや、どうにも不器用なので、細君が笑いだしたら、主人の汗だくで怒って曰《いわ》くさ、それではお前がやりなさい、へちまの棚なんて贅沢品《ぜいたくひん》だ、生活の様式を拡大するのは、僕はいやなんだ、僕たちは、そんな身分じゃない、と妙に興覚めな事を言い出したので、細君も態度も改め、それは承知して居ります、でも、へちまの棚くらいは在ってもいいと思います、こんな貧乏な家にでも、へちまの棚が出来るのだというのは、なんだか奇蹟みたいで、素晴しい事だと思います、私の家にでも、へちまの棚が出来るなんて嘘みたいで、私は嬉しくてなりません、と哀れな事を主張したので、主人は、また渋々《しぶしぶ》この棚の製作を継続しやがった。どうも、ここの主人は、少し細君に甘いようだて。どれ、どれ、親切を無にするのも心苦しい、ええと、こう行って、こうからみ附けっていうわけか、ああ、実に不細工な棚である。からみ附かせないように出来ている。意味ないよ。僕は、不仕合わせなへちまかも知れぬ。」 薔薇《ばら》と、ねぎ。 「ここの庭では、やはり私が女王だわ。いまはこんなに、からだが汚れて、葉の艶《つや》も無くなっちゃったけれど、これでも先日までは、次々と続けて十輪以上も花が咲いたものだわ。ご近所の叔母さんたちが、おお綺麗と言ってほめると、ここの主人が必ずぬっと部屋から出て来て、叔母さんたちに、だらし無くぺこぺこお辞儀するので、私は、とても恥ずかしかったわ。あたまが悪いんじゃないかしら。主人は、とても私を大事にしてくれるのだけれど、いつも間違った手入ればかりするのよ。私が喉《のど》が乾いて萎《しお》れかけた時には、ただ、うろうろして、奥さんをひどく叱るばかりで何も出来ないの。あげくの果には、私の大事な新芽を、気が狂ったみたいに、ちょんちょん摘み切ってしまって、うむ、これでどうやら、なんて真顔で言って澄ましているのよ。私は、苦笑したわ。あたまが悪いのだから、仕方がないのね。あの時、新芽をあんなに切られなかったら、私は、たしかに二十は咲けたのだわ。もう、駄目。あんまり命かぎり咲いたものだから、早く老い込んじゃった
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