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トップ > 太宰Web文庫 > 心の王者
心の王者 (p3/3)
る森のぐるりに早速縄を張り廻らし、そこを己れの楽しい狩猟と逢引《あいびき》の場所とした。市長は巷《ちまた》を分捕《ぶんど》り、漁人は水辺におのが居を定めた。総《すべ》ての分割の、とっくにすんだ後で、詩人がのっそりやって来た。彼は遥《はる》か遠方からやって来た。ああ、その時は何処にも何も無く、すべての土地に持主の名札が貼られてしまっていた。「ええ情ない! なんで私一人だけが皆から、かまって貰えないのだ。この私が、あなたの一番忠実な息子が?」と大声に苦情を叫びながら、彼はゼウスの玉座の前に身を投げた。「勝手に夢の国で、ぐずぐずしていて、」と神はさえぎった。「何も俺を怨《うら》むわけがない。お前は一体何処にいたのだ。皆が地球を分け合っているとき。」詩人は答えた。「私は、あなたのお傍に。目はあなたのお顔にそそがれて、耳は天上の音楽に聞きほれていました。この心をお許し下さい。あなたの光に陶然《とうぜん》と酔って、地上の事を忘れていたのを。」ゼウスは其の時やさしく言った。「どうすればいい? 地球はみんな呉《く》れてしまった。秋も、狩猟も、市場も、もう俺のものでない。お前が此《こ》の天上に、俺といたいなら時々やって来い。此所はお前の為に空けて置く!」
 いかがです。学生本来の姿とは、即ち此の神の寵児、此の詩人の姿に違いないのであります。地上の営みに於ては、何の誇るところが無くっても、其の自由な高貴の憧《あこが》れによって時々は神と共にさえ住めるのです。
 此の特権を自覚し給え。この特権を誇り給え。何時迄《いつまで》も君に具有している特権ではないのだぞ。ああ、それはほんの短い期間だ。その期間をこそ大事になさい。必ず自身を汚してはならぬ。地上の分割に与《あずか》るのは、それは学校を卒業したら、いやでも分割に与《あずか》るのだ。商人にもなれます。編輯者にもなれます。役人にもなれます。けれども、神の玉座に神と並んで座ることの出来るのは、それは学生時代以後には決してあり得ないことなのです。二度と返らぬことなのです。
 三田の学生諸君。諸君は常に「陸の王者」を歌うと共に、又ひそかに「心の王者」を以《もっ》て自任しなければなりません。神と共にある時期は君の生涯に、ただ此の一度であるのです。

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