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創生記 (p5/12)
ワレノ仕事《シゴト》ノコルヤ。不滅《フメツ》ノ真理《シンリ》ハ微笑《ホホエ》ンデ教《オシ》エル、「一長一短《イッチョウイッタン》。」ケサ、快晴《カイセイ》、ハネ起《オ》キテ、マコト、スパルタノ愛情《アイジョウ》、君《キミ》ノ右頬《ミギホオ》ヲ二《フタ》ツ、マタ三《ミ》ツ、強《ツヨ》ク打《ウ》ツ。他意《タイ》ナシ。林房雄《ハヤシフサオ》トイウ名《ナ》ノ一陣涼風《イチジンリョウフウ》ニソソノカサレ、浮《ウ》カレテナセル業《ワザ》ニスギズ。トリツク怒濤《ドトウ》、実《ジツ》ハ楽《タノ》シキ小波《サザナミ》、スベテ、コレ、ワガ命《イノチ》、シバラクモ生《イ》キ伸《ノ》ビテミタイ下心《シタゴコロ》ノ所為《ショイ》、東京《トウキョウ》ノオリンピック見《ミ》テカラ死《シ》ニタイ、読者《ドクシャ》ソウカト軽《カル》クウナズキ、深《フカ》キトガメダテ、シテハナラヌゾ。以上《イジョウ》

 山上の私語。
「おもしろく読みました。あと、あと、責任もてる?」
「はい。打倒のために書いたのでございませぬ。ごぞんじでしょうか。憤怒《ふんぬ》こそ愛の極点。」
「いかって、とくした人ないと古老のことばにもある。じたばた十年、二十年あがいて、古老のシンプリシティの網の中。はははは。そうして、ふり仮名つけたのは?」
「はい。すこし、よすぎた文章ゆえ、わざと傷つけました。きざっぽく、どうしても子供の鎧《よろい》、金糸銀糸。足なが蜂《ばち》の目さめるような派手な縞模様《しまもよう》は、蜂の親切。とげある虫ゆえ、気を許すな。この腹の模様めがけて、撃て、撃て。すなわち動物学の警戒色。先輩、石坂氏への、せめて礼儀と確信ございます。」

 われとわが作品へ、一言の説明、半句の弁解、作家にとっては致命の恥辱、文いたらず、人いたらぬこと、深く責めて、他意なし、人をうらまず独り、われ、厳酷の精進、これわが作家行動十年来の金科玉条、苦しみの底に在りし一夜も、ひそかにわれを慰め、しずかに微笑ませたこと再三ならずございました。けれども、一夜、転輾《てんてん》、わが胸の奥底ふかく秘め置きし、かの、それでもやっと一つ残し得たかなしい自矜《じきょう》、若きいのち破るとも孤城、まもり抜きますとバイロン卿に誓った掟《おきて》、苦しき手錠、重い鉄鎖、いま豁然《かつぜん》一笑、投げ捨てた。豚に真珠、豚に真珠、未来永劫、ほう、真珠だったのか、おれは嘲って、恥かしい、など素直にわが過失みとめての謝罪どころか、おれは先《せん》から知っていたねえ、このひと、ただの書生さんじゃないと見込んで、去年の夏、おれの畑のとうもろこし、七本ばっか呉《く》れてやったことがあります。まことは、二本。そのほか、処々の無智ゆえに情薄き評定の有様、手にとるが如く、眼前に真しろき滝を見るよりも分明、知りつつもわれ、真珠の雨、のちのち、わがためのブランデス先生、おそらくは、わが死後、――いやだ!

 真珠の雨。無言の海容。すべて、これらのお慈悲、ひねこびた倒錯《とうさく》の愛情、無意識の女々しき復讐心より発するものと知れ。つね日頃より貴族の出《しゅつ》を誇れる傲縦《ごうしょう》のマダム、かの女の情夫のあられもない、一路物慾、マダムの丸い顔、

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